boulangerieの暇つぶし

元パン屋で都内タクドラの雑記。パン、料理(自炊)、音楽、映画、インテリア、酒、車、旅行...元嫁と質素な楽しい暮らし。

編集のジレンマ:テクノロジーの進化と自由の幅 ❶

ブルースから派生したロックが白人文化に移行して数年後、イギリスからビートルズが現れた。ストーンズ派の私はビートルズについては詳しく知らないのだけども、彼らの出現によって大きく変わったのはスタジオ録音の変革だとも言われている。

 

それまでの録音といえば生演奏をそのままレコード盤に録音すると言うもので、演奏をミスればまた1からやり直し、それが磁気テープの出現で編集作業によって音を操れるようになった。今ではパソコンによってこんな私でさえも映像の切り貼りや多重録音なんて事が可能なのだけども、それが最初に行われたのは60〜70年程前の話だ。

 

この磁気テープによる編集作業の変化によって、1960年代中盤ではスタジオでしか再現出来ない新たな音が加わることになる。この変化に瞬時に反応したのがビートルズで、録音スタジオはそれまでの目的であるレコーディングから新たな音を創造する場所としての機能を開始した。

1970年リリースの「レイン」ではビートルズが初めて逆再生を取り入れたとなっている。

「音をいじる」 事がもたらす奇妙な効果&新たな表現は、それまでの楽器による演奏表現の世界を根底から覆すことになる。

 

アメリカ中は活気に溢れ自由の象徴的なヒッピー文化が台頭、そこに終盤のベトナム戦争の混沌とした世界が衝突しまさにカオスの状態。戦争がもたらした狂気、平和とは何か?自由とは何か?あるものはドラッグに溺れ

 

 

ビートルズもドラッグに溺れた  

 

Tomorrow Never Knows」はドラッグ摂取中の頭の中を描いたなんて事も言われている。

 

平和を求め思想を高め自分を高めるつもりの様々な葛藤がドラッグによって頭の中で錯綜し何とも表現しようのない音へと繋がって...

今まで不可能だと思われていた音がスタジオ録音にて表現する事が可能になって行った。この楽曲で表現したかったのはダライ・ラマの山頂からの説法=山に反響したやまびこのような音。カモメの鳴き声のような音、オーケストラのバイオリンの音、シンセサイザーのような不思議な音などいくつもの音を同時に鳴らしその場でそれぞれの音の強弱を調整し、その時欲しい音だけを抜き出して行く。サンプリングやループと言った今では当たり前の編集方法のスタートだ。しかしこの変革にも弊害があった。ライブでの再現度が難しくなりビートルズはツアーを中止、が!この事がきっかけで後にスタジオに籠る時間が増え、飛躍的に成長をする所がポップス界の先駆者たる所以だ。

 

1曲、いや一つの音に徹底的に時間をかける事が可能となった彼らはあらゆる技術を活用、自由な時間を存分に使い自分達の満足する音楽を作るようになる。四人のアイデアが詰まったこの楽曲はオーケストラも動員して壮大な曲となった。それまで楽譜通りに演奏する事が正義だった団員達に向かって自分らしい音を出すように指示、楽団員達がそれまでの演奏を覆された瞬間だった。この新しい試みやアイデアが詰まったアルバム「サージェントペパーズ」は当時専門誌に酷評されたらしい。しかし制作過程でやり切った本人達は自身に満ち溢れ、編集に携わる専門家らは車を停め聴き入った。

 

60年代〜70年代半ばはロックと共にポップス界が無数のジャンルに分かれて行った最初の時代。アーティスト達はオリジナルの方法で新たな音を模索し自己表現力を高めて行った。あるものは床に置いたマイクに歌い、またあるものはトイレの向こうに置いた録音機材でわざわざ録音、時には物を叩き自然の音を広い編集する。テクノロジーの変化にも弊害があった。3トラックから始まった編集の歴史は今では無限の音で無限の組み合わせが可能。自由の幅を広げ過ぎて正解が分からなくなってしまった。

 

進歩したのは気の迷い。笑

なんとも皮肉な状態に陥った訳だ。

 

ゲッ!なげーから続く...