酵母編
パンの起源は偶然の事から発見された発酵に端を発し←放って置いたら膨らんだ的な
1680年に酵母菌を発見、1861年にパン酵母の正体が明らかにされたと言われている。
食品に関する微生物には、カビ、酵母、細菌の3種類があるけど、微生物のうち一つの細胞で独立することが可能、増殖する際は分裂するものを酵母(イースト)と呼んでいる。→楕円形をしている
酵母はパン生地中で※糖を分解して炭酸ガスを発生する生命活動を行なっていて→発酵
栄養、温度、酸素の三つの要素で増殖する。
ここまではパンが膨らむ理由で良く言われている事であるが、なんと言っても糖を分解する酵素の働きがキモ。酵母の中には50種類以上に及ぶ酵素が存在するのだけども、中でもインベルターゼ、マルターゼ、チマーゼ群と言う三つの酵素の働きが重要だ。
パン生地中の酵素の働きの具体例を挙げると...
しょ糖はインベルターゼによってぶどう糖と果糖に分解。そのぶどう糖と果糖は共にチマーゼで炭酸ガスやアルコールに分解される。 でんぷんはアミラーゼで麦芽糖とデキストリンに。その後マルターゼによってぶどう糖へ...と言う感じで酵母は生地中の材料を自分好みに変化させている。 他にもタンパク質や粉乳などにも影響を与え、炭酸ガス以外にもアルコールや有機酸などを生成。
一口にアルコールと言ってもその数は30種類を超え、まー沢山の物質に様々な影響を与え、その結果美味しさの元となる芳香物質を生成しているんですね。また、生地中のpH(ペーハー)にも影響を与え、グルテンの耐久性とか吸水などにも影響を与えます。
このように酵母の生命活動は複雑なので、ドライイースト、生イースト、発酵種、天然酵母など、酵母の種類によっての美味しさの比較は無理な話で、それぞれの特性を活かした配合、粉の選別、発酵時間、製法との組み合わせでもって理想のパンを焼き上げる事が大切。なので、天然酵母...これもいつかチラリと書いたのだけでも、この言葉については定義は無いし他の酵母との単純な比較もあまり意味が無いと思う。
また、今のように酵母が工業的に安定して供給できる技術がなかった大昔はサワー種(発酵種)を使う事が多かったのだけど、例えば
1番種→ライ麦100% 水100%を26℃で24時間発酵(ライ麦に付着している酵母や空気中の酵母を取り込んで発酵させる)これを4番種まで繰り返しようやく本捏ねに使える初種が完成する。(この製法は、野菜や果物から採取した酵母を入れても良いね)
この数日に渡る長い発酵の理由を簡単に言うと、パン作りに必要な酵母の数にする事(培養)。サッカロミセス..以外は市販で使用されるパンに特化した優秀な酵母と違ってなにせ時間が掛かる。その結果として乳酸菌などが増えると同時に人間が食べても良い物だけが残る。また、ライ麦はグルテンを持たないので乳酸発酵をする事でグルテンの代わりとなるペントザンを増やし焼いた後に消化の良い物にする。その土地で育つ原料から発展してきた理にかなった製法だ。
ちなみに◯◯酵母みたいな前日に予備発酵させると1日で使える便利な物も定着しているのだけども、こちらは簡易発酵種とでも言うべきもので、工業的に培養している事は市販の酵母と変わりは無い。上記のサワー種の工程を終えて粉と合わせて乾燥させたもので誰でも容易に発酵種が作成できる便利な代物だ。酵母(素材)や製法の違いで独特な風味も良い感じ。(酒種みたい)
その他、りんご、レーズン、サツマイモ、いちご...
酵母は穀物をはじめ甘みのある野菜や果物に多く付着しているので、それらから採取した酵母でも勿論パンが出来る。ただし、種を継ぎ足して使用して行くと一発目は良いけども結局その工房で一番多い酵母に支配されるので←シャレか!
毎度、毎度一つの生地を一週間ほどかけて製造するのは現実的では無い。
当然りんごから取ったからりんごの風味がするわけでもありませんし。
発酵→酵母の生命活動の結果他に影響を与える(長すぎても短すぎてもダメ)→食感などに影響
熟成→酵素の働きによる物性の変化→酵素によって単糖類が多糖類に変化する事で、唾液で解けたときに甘みを感じる物質に変化するなど→風味や味に影響
発酵が与える様々な影響を考慮しつつ最適な熟成状態の時に焼き上げる。
すなわち、美味しいパン作りには発酵と熟成のバランスが何よりも大切です。